死と日常と切り離すため、日常とは反対のことをする風習を「逆さ事」といい、お葬式のしきたりとして現在に残っているものがあります。臨終後、布団に寝かせた故人の枕元に逆さにした屏風を立てるしきたりは、全国的によく見られるようです。「逆さ屏風」といいます。

また、あの世はこの世と反対の世界になっている、という俗信もあったようです。例えば、今この世で昼ならあの世では夜、という具合です。昔は夜にしかお葬式をしなかったのは、故人があの世をへ行くときには昼間のほうが明るくていいだろうという考え方があったため、ともいわれています。

由来の真偽はともかくとして、「逆さ事」として残っている風習に、先程述べた逆さ屏風のほかには湯潅(ゆかん)があります。納棺の前に現世の汚れを落とすという意味で、遺体を洗い清める儀式です。湯灌のときに使うぬるま湯の作り方を「逆さ水」といいます。 普段、私たちがぬるま湯を作るとき、大抵はお湯に水を注いで作りますが、逆さ水では水にお湯を注いで作ります。日常のやり方と逆の方法をとっているのです。昔は、湯濯で使う水を川から汲んでくる時も「逆さ柄」というやり方をして、柄杓で川下に向かって水を掬っていたといいます。

「逆さ布団」といって故人の寝る布団の天地を逆にしたり、死装束の着物は左前だったり、着物の合わせの紐を縦結びにしたりと、色々な風習が残っています。

故人の衣服の襟を足元のほうにして遺体の上に被せる「逆さ着物」や、故人が生前に愛用したスーツを納棺の際に逆さにして棺に入れるといった、珍しい逆さ事が残る地域もあります。納棺した遺体にかけるたすきを逆にしたり、故人に紋付羽織を後ろ前に着せて納棺するという県もあるようです。