ショルダーバッグと小さな帽子

1955年に発売されたショルダーバッグは、シャネルが手持ちのバッグに、革紐をつけたことがはじまりでした。
外出の際、バッグを小脇に抱えていては紛失するのではないかと不安がったシャネルが、肩がけのバッグに作り変えたのが発端です。
それまで裾の長いドレスを来て、大きなつばのついた帽子を被り、ヨタヨタと歩いていた女性たちは、シャネルのスーツを来て、肩からバッグを颯爽とかけ、自由になった両手を振って街中を歩きまわりお洒落を楽しむようになりました。
まるで現代の女性たちのように。

1908年、シャネル25歳、パリに最初の帽子店を開いてから、女性たちは、シャネルの装いに夢中でした。
その数年前の1903年、20歳、修道院を出たのち歌手をめざして歌っていた居酒屋で最初の愛人と出会います。
大富豪であった彼は、シャネルに飲み食いする為に働かなくてよい生活を教えてくれました。

贅沢三昧の生活に招き入れられた彼女は、安楽な生活を手にいれたがすぐに退屈してしまいます。
彼の自宅には、富裕層の友人たちが、多く出入りしていました。
その光景は、修道院で暮らしていた環境からは一変、何もかもが別世界でしたが、男の機嫌ひとつで生活が左右される娼婦、男の顔色をうかがいながら生活する女たち、裕福な家系に生まれたというだけで、何もせずくだらないおしゃべりに一日を費やす面々に嫌気がさしていきます。

そんな女たちは、決まって頭には大きな帽子をかぶっていました。
ドレスはだらだらと裾を引きずりながらふらつきながら歩き、胴回りは流行りのコルセットで締め上げ、男たちが買い与えたゴージャスな宝石類をを周囲に見せびらかすように身につけていました。
シャネルは、そんな女性たちと一緒だと思われることを強烈に拒みました。
その思いは彼女のファッションに投影されていくのです。
そんな中、シャネルは、男性が楽しむ乗馬を好み、男性顔負けに乗馬ズボンを着こなし、頭にきちんと収まる小さな帽子を被りました。
当初は、異質な彼女の姿に怪訝そうな表情を見せる貴婦人たちも、彼女の快活でエレガントな姿に、心奪われ、またたくまに、シャネルの帽子店には注文が殺到しました。

男の財力のもと、着飾る女性たちは、シャネルのファッションに憧れ、彼女の提案を受け入れることになったのです。
そして、時代とともに世界中の女性の心を虜にしていきます。
シャネルが提案した女性の姿とは、小さな帽子を被り、ショルダーバッグをさっそうと肩がけし、スーツを着こなす現代女性たちの姿そのものだともいえるでしょう。